がんと診断されたとき、治療のことだけで頭がいっぱいになり、お金の心配は後回しになってしまうものです。手術・抗がん剤治療・放射線治療と、治療が長期にわたるほど、経済的な負担も積み重なっていきます。
実は、がんの治療を受けている方が対象になりうる公的支援制度は、医療費そのものを軽減するものだけではありません。脱毛や体形の変化に向き合うための制度、治療の後遺症によって対象になる年金制度など、意外と知られていない支援もあります。
このページでは、がんの診断・治療を受けている方が対象になりうる代表的な5つの制度をご紹介します。
1. 導入:まず知っておきたい5つの公的支援制度
| 制度名 | どんなときに対象になるか | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 高額療養費制度 | 1か月の医療費が高額になったとき | 自己負担に上限が設けられ、超えた分が戻る |
| 医療費控除 | 1年間の医療費が一定額を超えたとき | 確定申告で税金の一部が還付される |
| 傷病手当金 | 治療のために休職するとき | 給与のおよそ3分の2が最長1年6か月支給される |
| アピアランスケア支援 | 脱毛や体形の変化に悩んでいるとき | ウィッグ等の購入費の一部が助成される |
| 障害年金 | 人工肛門・新膀胱の造設等の後遺症があるとき | 「がんは対象外」は誤解。等級により支給される |
医師の視点総合診療医のひとこと
治療を始める前に、マイナ保険証の利用か限度額適用認定証の準備をしておくと、窓口での大きな立て替えを防げます。仕事を続けるか迷ったら、辞める前に、がん診療連携拠点病院の「がん相談支援センター」に相談してみてください。無料で、その病院にかかっていなくても利用できます。
― “おせっか医”になりたい大学病院総合診療科・家庭医専攻医
2. 高額療養費制度
治療が続くほど頼りになる「高額療養費制度」
がんの治療は、手術・抗がん剤治療・放射線治療と、複数の治療が組み合わさることが多く、医療費が月単位で高額になりやすい病気です。そんなときに頼りになるのが高額療養費制度です。
どんな制度か
同じ月(1日〜末日)に支払った医療費の自己負担額が、所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される制度です。
「多数回該当」を知っておくと安心です
過去12か月以内に3回以上、高額療養費の上限に達した場合、4回目以降はさらに低い上限額(多数回該当)が適用されます。がん治療のように複数月にわたって医療費がかさむ場合、この仕組みが大きな助けになります。
申請の流れ
- 事前に「限度額適用認定証」の交付を受けておくことで、窓口での支払いをはじめから自己負担上限額までに抑えられる
- すでに支払った分は、加入している健康保険に「高額療養費支給申請書」を提出して払い戻しを受ける
マイナ保険証を利用している場合は、限度額適用認定証がなくても窓口負担が自動的に調整される仕組みが広がっています。
3. 医療費控除
確定申告で戻ってくる「医療費控除」
1年間の医療費の世帯合計が一定額を超えた場合、確定申告をすることで所得控除が受けられ、所得税・住民税の負担が軽くなります。
何が対象になるか
- 手術費・抗がん剤治療費・放射線治療費
- 通院のための交通費(公共交通機関を利用した場合)
申請の流れ
- 1年間の医療費の領収書・交通費の記録を保管しておく
- 「医療費控除の明細書」を作成する
- 確定申告の時期(原則2月16日〜3月15日)に申告する(還付申告であれば1月から可能)
4. 傷病手当金
治療で休職するときの「傷病手当金」
手術後の療養や、抗がん剤治療の副作用などにより仕事を休む必要が出てきたとき、傷病手当金が生活の支えになります。
対象になる条件
- 業務外の病気により働けなくなったこと(医師が労務不能と判断すること)
- 連続して3日間(待期期間)休んだうえで、4日目以降も休んでいること
- 休んでいる期間、会社から給与の支払いがないこと
- 協会けんぽ・健康保険組合など、対象となる健康保険に加入していること
いくらもらえるか
1日あたり、およそ標準報酬月額の3分の2に相当する額が、通算1年6か月まで支給されます。
実務上の注意点
- 治療が長期化し、1年6か月の支給上限に近づいてきた場合は、次にご紹介する「障害年金」への切り替えを検討する余地があります
- 退職後も、一定の条件を満たせば継続して受給できる場合があります
傷病手当金はいくらもらえる?
傷病手当金かんたん計算で確かめる5. アピアランスケア支援
知られていない「アピアランスケア支援」
抗がん剤治療による脱毛や、手術による乳房の切除など、がん治療は外見の変化を伴うことがあります。こうした変化に向き合うための費用を助成する制度が、多くの自治体で用意されています。
どんな制度か
がんの診断・治療(化学療法・手術療法等)を受けた方が、医療用ウィッグや胸部補正具(乳房補正具)を購入・レンタルした際の費用の一部を、お住まいの市区町村が助成する制度です。
どのくらい助成されるか(代表例)
多くの自治体で、購入費用の2分の1程度、上限額を設けて助成しています(代表例:仙台市では購入費用の2分の1、対象品目1人1回1点まで)。助成の有無・金額・対象品目は自治体により大きく異なります。
申請の流れ(代表例)
- お住まいの市区町村の健康・がん対策担当窓口に確認する
- がん治療を証明する書類(診断書・治療計画書等の写し)を用意する
- ウィッグ・胸部補正具を購入し、領収書を保管する
- 申請書・証明書類・領収書・口座情報を提出する
6. 障害年金
「がんは対象外」は誤解です
障害年金と聞くと、がんとは縁のない制度だと思われがちですが、それは誤解です。治療の後遺症や、がんそのものによる機能低下によって、対象になる場合があります。
どんな制度か
病気やけがによって生活や仕事が制限される場合に受け取れる年金です。がんそのものによる強い倦怠感や機能低下、抗がん剤の副作用による神経障害なども、等級判定の対象になりえます。
申請のタイミング
原則として、初診日から1年6か月経過した日(障害認定日)以降に申請できます。ただし、人工肛門や新膀胱を造設した場合は、造設した日から6か月たった日が障害認定日になり、1年6か月を待たずに請求できることがあります(初診日から1年6か月以内に造設した場合)。
障害認定日の時点で障害の状態にあれば、さかのぼって受け取ることもできます(最大5年分)。気になる場合は、早めに年金事務所に相談しましょう。
実務上の注意点
- 等級・年金の種類(障害基礎年金/障害厚生年金)により支給額が異なります
- 実際の等級判定は個別の状況によって大きく異なるため、まずは年金事務所や社会保険労務士等の専門家に相談することをおすすめします
- 傷病手当金の支給期間(1年6か月)が終わりに近づいてきたタイミングで、切り替えを検討する方が多い制度です
困ったときの相談先
- がん相談支援センター:全国のがん診療連携拠点病院などに設置されています。無料で、その病院にかかっていなくても利用できます。治療と仕事の両立、お金の相談にも対応しています
- 病院の医療ソーシャルワーカー(医療福祉相談室・患者支援センターなど):通院・入院している病院で、無料で相談できます。どの制度から手をつければよいかを一緒に整理してくれます
- ハローワーク:一部のハローワークには、がん患者などの就職を支援する専門の相談員がいます
- 年金事務所:障害年金の相談ができます
生活費が立ち行かないときは、お住まいの市区町村の自立相談支援機関や福祉事務所にもご相談ください。困ったときに使うための制度があります。
7. あなたに合いそうな制度を、LINEで確認してみませんか
ここまで5つの制度をご紹介しましたが、実際には「自分の場合、結局どれが使えるの?」と迷う方も多いと思います。加入している保険の種類や、現在休職中か、すでに退職されたかによって、対象になる制度の組み合わせは人によって変わってきます。
公式LINEでは、いくつかの簡単な質問にお答えいただくだけで、あなたの状況に合いそうな制度を選んでご案内しています。
- 加入している保険の種類(社会保険/国民健康保険/わからない)
- 現在の状況(休職中/休職していない/退職した)
この2つの質問にタップで答えるだけで、該当しそうな制度をLINEでお伝えします。友だち追加後、画面下のメニューから「がん」をタップすると始まります。「制度を知らないまま権利を使い逃す」ことを防ぐための、pull型(自分で調べる)からpush型(教えてもらえる)への入り口としてご活用ください。
あなたに合いそうな制度をLINEでチェック
友だち追加はこちら診断結果は制度の一般的な案内であり、実際に申請できるかどうかは個別の状況によって異なります。詳しい条件は、記事本文および各制度の窓口でご確認ください。
8. 免責事項
- 本記事は、がんの診断・治療を受けている方が対象になりうる代表的な公的支援制度を、一般的な情報として紹介するものです。個別の受給可否、支給額、審査結果を保証するものではありません。
- 制度の要件・自己負担額・給付内容は、加入している健康保険の種類、お住まいの自治体、所得状況等によって異なります。必ず各制度の公式窓口・専門家にご確認のうえ、申請手続きを進めてください。
- 本記事は医学的な診断・治療方針に関する助言を目的としたものではありません。治療方針に関するご相談は、必ず主治医にご相談ください。
- 制度の内容は法改正等により変更される場合があります。記事内の情報は最終更新日時点のものです。
出典・参考情報
- 高額療養費制度:厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
- 医療費控除:国税庁
- 傷病手当金:全国健康保険協会(協会けんぽ)公式サイト
- アピアランスケア支援:東京都がんポータルサイト、各市区町村公式サイト
- 障害年金:日本年金機構「障害年金」「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」

