糖尿病は、血糖コントロールを続けながら長く付き合っていく病気です。通院・薬代が続くことへの不安に加えて、症状が進行し人工透析が必要になった場合には、治療費の負担がさらに大きくなることもあります。
実は、糖尿病の治療段階、そして人工透析が必要になった段階、それぞれで対象になりうる公的支援制度が用意されています。特に人工透析については、負担を大きく減らせる専用の制度があるにもかかわらず、知らずに過ごしている方も少なくありません。
このページでは、糖尿病の治療を続けている方、人工透析が必要になった方が対象になりうる代表的な5つの制度をご紹介します。
1. 導入:まず知っておきたい5つの公的支援制度
| 制度名 | どんなときに対象になるか | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 特定疾病療養受療証 | 人工透析が必要になったとき | 1か月の自己負担が原則1万円に抑えられる |
| 自立支援医療(更生医療) | 身体障害者手帳を持ち、人工透析等を受けるとき | 自己負担が原則1割にさらに軽減される |
| 身体障害者手帳(じん臓機能障害) | 腎機能の障害が一定以上になったとき | 更生医療をはじめ各種優遇の入口になる |
| 高額療養費制度 | 透析以外の医療費が高額になったとき | 自己負担に上限が設けられ、超えた分が戻る |
| 医療費控除 | 1年間の医療費が一定額を超えたとき | 確定申告で税金の一部が還付される |
治療の進行度によって、対象になる制度が変わります
まだ人工透析をしていない、通院・薬物療法を続けている段階では、主に「高額療養費制度」「医療費控除」が対象になります。人工透析が必要になった段階では、それに加えて「特定疾病療養受療証」「自立支援医療(更生医療)」「身体障害者手帳」という、負担を大きく減らせる専用の制度の対象になりえます。
医師の視点総合診療医のひとこと
腎臓の機能が下がってきたら、透析が始まる前から身体障害者手帳や「特定疾病療養受療証」(透析の自己負担が原則月1万円まで)の準備を始めると安心です。腎臓内科や病院の医療ソーシャルワーカーに早めに相談してください。
― “おせっか医”になりたい大学病院総合診療科・家庭医専攻医
2. 特定疾病療養受療証
人工透析の負担を大きく減らす「特定疾病療養受療証」
糖尿病性腎症が進行し、人工透析が必要になった場合、まず知っておきたいのがこの制度です。透析治療は月に何度も通院する必要があり、医療費が高額になりやすいのですが、この制度によって自己負担が大幅に抑えられます。
どんな制度か
厚生労働大臣が指定する特定疾病(人工透析が必要な慢性腎不全、血友病、抗ウイルス剤投与中のHIV感染症)と診断された方に交付される証明書です。医療機関の窓口で提示することで、1か月の自己負担額が一定額までに抑えられます。
自己負担はどのくらいになるか
1か月あたりの自己負担限度額は、原則10,000円です。ただし、70歳未満で標準報酬月額53万円以上の方(上位所得者)は20,000円になります。
申請の流れ
- 人工透析を開始したら、加入している健康保険(協会けんぽ・健保組合・国民健康保険等)に「特定疾病療養受療証交付申請書」を提出する(医師の意見書が必要)
- 交付された受療証を、医療機関の窓口で健康保険証(マイナ保険証)とともに提示する
- それ以降、窓口での支払いが自動的に自己負担限度額までになる
実務上の注意点
- 人工透析治療を実際に受け始めてから申請できる制度です。シャント手術など透析開始前の準備段階には適用されません
- 受療証には有効期限がありません。一度交付されれば、そのまま継続して利用できます
- お住まいの自治体によっては、この自己負担額(1万円)自体をさらに助成する独自の医療費助成制度がある場合があります(代表例として東京都など)。お住まいの自治体窓口でも確認してみてください
3. 自立支援医療(更生医療)
さらに負担を軽減する「自立支援医療(更生医療)」
特定疾病療養受療証に加えて、身体障害者手帳をお持ちの方は、さらに自己負担を軽減できる可能性があります。
どんな制度か
身体障害者福祉法に基づき身体障害者手帳の交付を受けた18歳以上の方が、その障害を軽減・除去する治療を受ける際に、医療費の自己負担を軽減する制度です。人工透析・腎移植等が対象になります。
どのくらい軽減されるか
通常3割の自己負担が、原則1割に軽減されます。さらに所得水準に応じた月額の負担上限額も設定されており、低所得の方や長期・継続的な治療が必要な方(じん臓機能障害等)には、より低い上限が適用されます。
申請の流れ
- 身体障害者手帳(じん臓機能障害等)の交付を受ける
- 事前に身体障害者更生相談所の判定を受ける
- 指定自立支援医療機関で治療を受け、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に申請する
実務上の注意点
- 支給開始日は、身体障害者手帳の交付日以降となります。手帳を取得する前の治療にはさかのぼって適用されません
- 治療が長期にわたるもの(じん臓機能障害の人工透析療法等)は、原則として最長1年間ごとに更新が必要です
- 一定所得以上の場合、対象外になることがあります
4. 身体障害者手帳(じん臓機能障害)
更生医療の入口になる「身体障害者手帳」
自立支援医療(更生医療)を利用するには、まず身体障害者手帳(じん臓機能障害)の交付を受ける必要があります。
どんな制度か
糖尿病性腎症の進行により腎臓の機能に一定以上の障害が生じた方に交付される手帳です。人工透析の実施等が等級判定の基準に含まれます。
取得するとどうなるか
等級に応じ、税控除、公共料金・交通機関等の割引といった優遇に加えて、自立支援医療(更生医療)を利用する資格が得られます。手帳取得自体は原則無料です(診断書料は自己負担)。
申請の流れ
- 指定医のいる医療機関で診断書・意見書を作成してもらう
- お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に、申請書・診断書・写真等を提出する
- 都道府県による審査を経て、手帳が交付される
実務上の注意点
- この手帳の診断書は「指定医」でなければ作成できません。かかりつけ医が指定医でない場合は、指定医のいる医療機関を紹介してもらう必要があります
- 糖尿病の治療を続ける中で、人工透析が必要になった段階で、まず主治医に相談することが第一歩です
5. 高額療養費制度
透析以外の医療費を支える「高額療養費制度」
糖尿病の合併症(網膜症の手術、心血管疾患の治療等)で医療費が高額になった月には、高額療養費制度が使えます。特定疾病療養受療証をお持ちの方は、人工透析そのものについてはそちらが優先されることが多いですが、透析以外の医療費にはこの制度が役立ちます。
どんな制度か
同じ月(1日〜末日)に支払った医療費の自己負担額が、所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される制度です。
自己負担の上限はどのくらいか
上限額は年齢と所得区分によって段階的に決まっています。2026年8月の見直しで上限額が引き上げられ、たとえば70歳未満で年収がおおよそ370万〜770万円の一般的な区分では、1か月の自己負担上限は「85,800円+(医療費−286,000円)×1%」(改定前は80,100円+…)、月あたりおおむね9万円前後が目安です。過去12か月以内に上限額に達した月が3回以上あると4回目からは44,400円に下がり(多数回該当)、8月〜翌年7月の1年間の自己負担にも上限(この区分では53万円)が設けられています。
実務上の注意点
- 事前に「限度額適用認定証」の交付を受けておくことで、窓口での支払いをはじめから自己負担上限額までに抑えられます
- マイナ保険証を利用している場合は、限度額適用認定証がなくても窓口負担が自動的に調整される仕組みが広がっています
6. 医療費控除
確定申告で戻ってくる「医療費控除」
糖尿病の治療は、インスリン療法や血糖測定など、日常的に費用がかかる治療です。1年間の合計費用を見直してみると、思っていたより高額になっていることもあります。
どんな制度か
1年間(1月〜12月)に支払った医療費の世帯合計が一定額を超えた場合、確定申告をすることで所得控除が受けられ、所得税・住民税の負担が軽くなる制度です。
何が対象になるか
- インスリン注射剤、血糖測定器、血糖測定用のtest strip
- 通院のための交通費(公共交通機関を利用した場合)
市販のサプリメント・健康食品など、治療目的が明確でないものは対象外です。人工透析患者の場合、特定疾病療養受療証や更生医療で実際に自己負担した金額のみが対象になります。
申請の流れ
- 1年間の医療費の領収書・交通費の記録を保管しておく
- 「医療費控除の明細書」を作成する
- 確定申告の時期(原則2月16日〜3月15日)に申告する
困ったときの相談先
- 病院の医療ソーシャルワーカー(医療福祉相談室・患者支援センターなど):通院・入院している病院で、無料で相談できます。どの制度から手をつければよいかを一緒に整理してくれます
- 市区町村の障害福祉担当窓口:身体障害者手帳や自立支援医療(更生医療)の申請先です
- 加入している健康保険:特定疾病療養受療証の申請先です
- 年金事務所:人工透析と障害年金について相談できます
生活費が立ち行かないときは、お住まいの市区町村の自立相談支援機関や福祉事務所にもご相談ください。困ったときに使うための制度があります。
7. あなたに合いそうな制度を、LINEで確認してみませんか
ここまで5つの制度をご紹介しましたが、実際には「自分の場合、結局どれが使えるの?」と迷う方も多いと思います。治療の段階(食事・飲み薬/インスリン/人工透析)や、身体障害者手帳の有無によって、対象になる制度の組み合わせは人によって変わってきます。
公式LINEでは、いくつかの簡単な質問にお答えいただくだけで、あなたの状況に合いそうな制度を選んでご案内しています。
- 現在の治療の状況(食事・飲み薬中心/インスリン治療中/人工透析中)
- 1年間の医療費の見込み、または身体障害者手帳の有無(治療の状況により変わります)
この2つの質問にタップで答えるだけで、該当しそうな制度をLINEでお伝えします。友だち追加後、画面下のメニューから「糖尿病・生活習慣病」をタップすると始まります。「制度を知らないまま権利を使い逃す」ことを防ぐための、pull型(自分で調べる)からpush型(教えてもらえる)への入り口としてご活用ください。
あなたに合いそうな制度をLINEでチェック
友だち追加はこちら診断結果は制度の一般的な案内であり、実際に申請できるかどうかは個別の状況によって異なります。詳しい条件は、記事本文および各制度の窓口でご確認ください。
8. 免責事項
- 本記事は、糖尿病の治療を続けている方、人工透析が必要になった方が対象になりうる代表的な公的支援制度を、一般的な情報として紹介するものです。個別の受給可否、支給額、審査結果を保証するものではありません。
- 制度の要件・自己負担額・給付内容は、加入している健康保険の種類、所得状況等によって異なります。必ず各制度の公式窓口・専門家にご確認のうえ、申請手続きを進めてください。
- 本記事は医学的な診断・治療方針に関する助言を目的としたものではありません。治療方針に関するご相談は、必ず主治医にご相談ください。
- 制度の内容は法改正等により変更される場合があります。記事内の情報は最終更新日時点のものです。
出典・参考情報
- 特定疾病療養受療証:全国健康保険協会、東京都保健医療局、各健康保険組合公式サイト
- 自立支援医療(更生医療):厚生労働省、千葉県・長崎市・名古屋市公式サイト
- 高額療養費制度:厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
- 医療費控除:国税庁

