ご家族が寝たきりの状態にある、あるいは肢体不自由により日常生活に介助が必要——在宅で療養している方を支えるご家族にとって、日々のお世話に加えて経済的な負担も大きな悩みの種ではないでしょうか。
実は、こうした在宅療養の負担を軽くする公的支援制度は複数あるのですが、「申請しないと使えない」ものがほとんどで、しかも自治体や医療機関から積極的に案内されるとは限りません。訪問診療の現場でも、「その制度、知りませんでした」という声をよく耳にします。
このページでは、在宅療養中の方・そのご家族が対象になりうる代表的な5つの制度をご紹介します。
1. 導入:まず知っておきたい5つの公的支援制度
| 制度名 | どんなときに対象になるか | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| おむつ使用証明書 | 寝たきりでおむつを使用しているとき | おむつ代を医療費控除の対象にできる |
| 障害者控除対象者認定書 | 65歳以上で要介護認定を受けているとき | 手帳がなくても税法上の障害者控除が受けられる |
| 身体障害者手帳(肢体不自由) | 肢体不自由により運動機能に制限があるとき | 税控除・各種割引などの優遇が受けられる |
| 特別障害者手当 | 常時特別な介護を要する重度障害があるとき | 月額30,450円が支給される(令和8年4月改定後) |
| 高額療養費制度 | 1か月の医療費が高額になったとき | 自己負担に上限が設けられ、超えた分が戻る |
「指定医」でなくても書ける書類がほとんどです
在宅療養の制度でよく誤解されるのが、「特別な資格を持つ医師でないと書類を作成してもらえないのでは」という点です。実際には、下記のうち身体障害者手帳の診断書だけが「指定医」でなければ作成できません。おむつ使用証明書・障害者控除対象者認定書・特別障害者手当の診断書は、かかりつけの医師であれば作成できます。まずはかかりつけ医に相談してみることをおすすめします。
医師の視点総合診療医のひとこと
介護保険の申請は、退院が決まる前から始められます。入院中に病院の医療ソーシャルワーカーへ声をかけておくと、退院した日から訪問診療や介護サービスを使えるように準備が進みます。
― “おせっか医”になりたい大学病院総合診療科・家庭医専攻医
2. おむつ使用証明書(医療費控除)
おむつ代を税金の還付につなげる「おむつ使用証明書」
在宅療養で意外と負担になるのが、毎月のおむつ代です。実はこの費用、医療費控除の対象にできる場合があります。
どんな制度か
寝たきり状態にあり、治療上おむつの使用が必要と医師が認める方について、おむつ代を医療費控除の対象に含められる制度です。1年間の医療費が一定額を超えた場合に確定申告をすることで、所得税・住民税が軽減されます。
1年目と2年目以降で必要な書類が違います
- 1年目:医師が発行する「おむつ使用証明書」が必要です
- 2年目以降:要介護認定の際に主治医が作成した「主治医意見書」に、寝たきり度(B1・B2・C1・C2)と尿失禁の可能性ありの記載があれば、医師の証明書に代えて、市区町村が発行する確認書で申告できる場合があります
申請の流れ
- 1年目は、かかりつけ医に「おむつ使用証明書」の作成を依頼する(指定医資格は不要です)
- 2年目以降は、市区町村の介護保険担当課に、代替書類を発行してもらえるか確認する
- 1年間のおむつ代の領収書を保管しておく
- 確定申告の時期(原則2月16日〜3月15日)に、医療費控除の明細書とともに申告する
実務上の注意点
- おむつ使用証明書の発行は、医療機関により有料の場合があります
- 医療費控除の対象になる期間は、証明書に書かれた「必要と認めた日」からです。証明書の発行日より前の購入分も対象になるので、領収書は早めから保管しておきましょう
- 自治体により、代替書類の名称・運用が異なります。「確認書」「証明書」など呼び方もさまざまなので、代表例として捉えてください
3. 障害者控除対象者認定書
意外と知られていない「障害者控除対象者認定書」
身体障害者手帳を持っていなくても、要介護認定を受けている高齢者であれば、税法上の障害者控除を受けられる場合があります。申請しないと自動的には適用されない制度です。
どんな制度か
身体障害者手帳等の交付を受けていない65歳以上の方で、要介護認定(多くの自治体で要介護1〜5、自治体により要支援を含む)を受けている場合に、市区町村が「障害者控除対象者認定書」を発行してくれる制度です。この認定書を確定申告時に提出すると、所得税・住民税の障害者控除(要件によっては特別障害者控除)が受けられます。
対象になる条件(代表例)
- 認定基準日(12月31日)時点で65歳以上であること
- 身体障害者手帳等の交付を受けていないこと(手帳をお持ちの場合はこの認定書自体が不要です)
- 要介護認定を受けており、身体状況や認知機能が一定の基準に該当すること
申請の流れ
- お住まいの市区町村の介護保険担当課・高齢福祉担当課に申請する(多くの自治体で翌年1月頃から受付開始)
- 自治体が要介護認定の資料等をもとに審査し、認定書を発行する
- 確定申告時に、認定書を添えて申告する
実務上の注意点
- この書類の作成には、身体障害者手帳のような「指定医」資格は必要ありません。自治体が介護認定の資料をもとに判断するため、医師が別途診断書を書く必要もない場合がほとんどです
- 認定基準(対象となる要介護度の範囲等)は自治体ごとに差があります
- 「知らなかったので申請していなかった」という方が多い制度です。要介護認定を受けているご家族がいる場合は、一度確認してみることをおすすめします
4. 身体障害者手帳(肢体不自由)
各種優遇の入口になる「身体障害者手帳」
脳卒中の後遺症や神経難病の進行などにより、運動機能に制限が生じた場合、身体障害者手帳(肢体不自由)の対象になることがあります。
どんな制度か
肢体不自由により身体機能に一定以上の制限がある方に交付される手帳です。等級は1級から7級まであり、税控除・公共料金や交通機関の割引・補装具費の給付・福祉サービスの利用など、等級に応じたさまざまな優遇を受けられます。
申請の流れ
- 主治医に相談し、指定医のいる医療機関を紹介してもらう(すでに指定医にかかっている場合はそのまま依頼)
- 指定医に診断書・意見書の作成を依頼する
- お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に、申請書・診断書・写真等を提出する
- 都道府県による審査を経て、手帳が交付される
実務上の注意点
- 7級単独では手帳交付の対象になりませんが、7級の障害が2つ以上重複する場合等には交付対象になることがあります
- 人工肛門・新膀胱を増設した方は原則「4級」に該当することが多い一方、人工関節・人工靱帯の手術のみでは原則対象外です。心臓ペースメーカー等の装着による等級も、実態に応じた審査が行われます(一律の等級ではありません)
- 在宅療養に至った経緯(病気の進行等)により、途中から等級に該当するようになるケースもあります。症状が変化してきたと感じたら、一度主治医に相談してみてください
5. 特別障害者手当
在宅の重度障害者を支える「特別障害者手当」
常時特別な介護が必要なほど重度の障害がある場合、国の制度である「特別障害者手当」の対象になることがあります。
どんな制度か
20歳以上で、精神または身体に著しい重度の障害があり、日常生活において常時特別な介護を必要とする在宅の方に支給される手当です。所定の診断書により判定され、身体障害者手帳を持っていなくても対象になる場合があります。
いくらもらえるか
月額30,450円(令和8年4月改定後)が支給されます。年4回(2月・5月・8月・11月)に、それぞれ前月分までがまとめて支給されます。
対象外になるケースに要注意
申請の流れ
- お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に相談する
- 所定の診断書をかかりつけ医に作成してもらう(指定医資格は不要です)
- 認定請求書・診断書・マイナンバー確認書類等を提出する
- 審査を経て、申請月の翌月分から支給が開始される
実務上の注意点
- 所得制限があります。本人・配偶者・扶養義務者の所得が一定額を超えると支給停止になります
- 毎年8月に「所得状況届」の提出が必要です。提出がないと支給が停止されることがあるため、案内が届いたら早めに対応しましょう
- 障害基礎年金・障害厚生年金など他の公的年金とは併給可能です
6. 高額療養費制度
医療費が高額になった月を支える「高額療養費制度」
在宅療養は、訪問診療・訪問看護を定期的に利用することが多く、月々の医療費が積み重なりやすい面があります。そんなときに頼りになるのが高額療養費制度です。
どんな制度か
同じ月(1日〜末日)に支払った医療費の自己負担額(訪問診療料・訪問看護療養費の自己負担分等を含む)が、所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される制度です。
自己負担の上限はどのくらいか
上限額は年齢と所得区分によって段階的に決まっています。上限額は年齢と所得区分によって段階的に決まっています。2026年8月の見直しで上限額が引き上げられ、たとえば70歳未満で年収がおおよそ370万〜770万円の一般的な区分では、1か月の自己負担上限は「85,800円+(医療費−286,000円)×1%」(改定前は80,100円+…)、月あたりおおむね9万円前後が目安です。過去12か月以内に上限額に達した月が3回以上あると4回目からは44,400円に下がり(多数回該当)、8月〜翌年7月の1年間の自己負担にも上限(この区分では53万円)が設けられています。70歳以上の方は、外来のみの上限額が別途低く設定されている区分もあります。
申請の流れ(2つの使い方)
- 後から払い戻しを受ける方法:いったん医療機関の窓口で自己負担分を支払い、後日「高額療養費支給申請書」を加入している健康保険に提出して差額の払い戻しを受ける
- 窓口での支払い自体を抑える方法:事前に「限度額適用認定証」の交付を受けておくことで、窓口での支払いをはじめから自己負担上限額までに抑えられる
訪問診療・訪問看護のように毎月継続して医療費が発生する場合は、あらかじめ限度額適用認定証を用意しておく方法がおすすめです。
実務上の注意点
- 介護保険サービスと医療保険サービスの自己負担を合算できる「高額医療・高額介護合算療養費制度」という別の制度もあります。在宅療養で介護サービスも併用している場合は、こちらも合わせて確認する価値があります
- 加入する健康保険組合によっては、法定の上限額に加えて独自の「付加給付」があります
困ったときの相談先
- 地域包括支援センター:介護・福祉・医療の総合相談窓口です。要介護認定の申請も手伝ってくれます
- ケアマネジャー:介護サービスの計画づくりと調整を担当します
- 病院の医療ソーシャルワーカー(医療福祉相談室・患者支援センターなど):通院・入院している病院で、無料で相談できます。どの制度から手をつければよいかを一緒に整理してくれます。退院前から相談しておくと、在宅療養の準備がスムーズです
- 市区町村の障害福祉担当窓口:身体障害者手帳や特別障害者手当の申請先です
生活費が立ち行かないときは、お住まいの市区町村の自立相談支援機関や福祉事務所にもご相談ください。困ったときに使うための制度があります。
7. あなたに合いそうな制度を、LINEで確認してみませんか
ここまで5つの制度をご紹介しましたが、実際には「うちの場合、結局どれが使えるの?」と迷う方も多いと思います。要介護認定の有無や、寝たきりに近い状態かどうかによって、対象になる制度の組み合わせは人によって変わってきます。
公式LINEでは、いくつかの簡単な質問にお答えいただくだけで、あなたのご家族の状況に合いそうな制度を選んでご案内しています。
- 要介護認定を受けているか(受けている/受けていない)
- ご本人の状態(ほぼ寝たきり/ある程度動ける)
この2つの質問にタップで答えるだけで、該当しそうな制度をLINEでお伝えします。友だち追加後、画面下のメニューの「すべて見る」→「病名から探す」から「在宅療養」をタップすると始まります。「制度を知らないまま権利を使い逃す」ことを防ぐための、pull型(自分で調べる)からpush型(教えてもらえる)への入り口としてご活用ください。
あなたに合いそうな制度をLINEでチェック
友だち追加はこちら診断結果は制度の一般的な案内であり、実際に申請できるかどうかは個別の状況によって異なります。詳しい条件は、記事本文および各制度の窓口でご確認ください。
8. 免責事項
- 本記事は、在宅療養中の方・そのご家族が対象になりうる代表的な公的支援制度を、一般的な情報として紹介するものです。個別の受給可否、支給額、審査結果を保証するものではありません。
- 制度の要件・自己負担額・給付内容は、お住まいの自治体、加入している健康保険の種類、所得状況等によって異なります。必ず各制度の公式窓口・専門家にご確認のうえ、申請手続きを進めてください。
- 本記事は医学的な診断・治療方針に関する助言を目的としたものではありません。症状に関するご相談は、必ず主治医にご相談ください。
- 制度の内容は法改正等により変更される場合があります。記事内の情報は最終更新日時点のものです。
出典・参考情報
- おむつ使用証明書:国税庁「おむつに係る費用の医療費控除の取扱いについて」(法令解釈通達)、各市区町村公式サイト
- 障害者控除対象者認定書:国税庁タックスアンサーNo.1185、各市区町村公式サイト
- 身体障害者手帳:厚生労働省、各自治体公式サイト
- 特別障害者手当:厚生労働省、各自治体公式サイト
- 高額療養費制度:厚生労働省保険局「高額療養費制度を利用される皆さまへ」

