病気やけがで仕事を続けられなくなったとき、「休職するか、退職するか」「その間の生活費はどうするか」を、体調が悪い中で考えなければならないことがあります。
実は、働けなくなったときに頼れる公的制度には「使う順番」と「組み合わせのルール」があります。順番を知らずに退職日を決めてしまい、本来受け取れたはずの給付を受け取れなかった、というご相談も少なくありません。
このページでは、傷病手当金・雇用保険(失業給付)・障害年金を中心に、働けなくなったときの制度の使い方と順番をご紹介します。
1. 導入:まず知っておきたい制度の順番
| 時期 | 中心になる制度 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 休職中(在職中) | 傷病手当金 | 給与のおよそ3分の2が、通算で最長1年6か月支給される |
| 療養中に退職 | 傷病手当金(退職後の継続給付) | 条件を満たせば、退職後も受け取り続けられる |
| 回復して仕事を探す | 雇用保険(失業給付) | 「働ける状態」になってから受け取る。受給期間の延長を忘れずに |
| 1年6か月たっても症状が続く | 障害年金 | 病名を問わず、生活や仕事への支障の程度で判断される |
医師の視点総合診療医のひとこと
障害年金では「初診日」の証明がいちばんの壁になりがちです。最初にかかった医療機関の名前と受診日をメモしておきましょう。カルテの保存期間は原則5年なので、早めの確認が安心です。
― “おせっか医”になりたい大学病院総合診療科・家庭医専攻医
見落としやすい手続きの期限
| 手続き | 期限 |
|---|---|
| 任意継続(退職後も会社の健康保険を続ける) | 退職日の翌日から20日以内 |
| 傷病手当金の請求 | 休んだ日ごとに、その翌日から2年 |
| 高額療養費の払い戻し | 診療月の翌月1日から2年 |
| 雇用保険(失業給付)の受給期間 | 原則、退職日の翌日から1年(病気の場合は延長の申請を) |
| 障害年金(障害認定日にさかのぼる請求) | さかのぼって受け取れるのは最大5年分 |
2. 休職中:傷病手当金
働けない間の生活を支える、最初の柱
会社員や公務員など、勤務先の健康保険に加入している方が、病気やけがで仕事を休み、給与が支払われない場合に受け取れる制度です。病名は問わず、うつ病などのこころの病気も対象になります。
支給額と期間
- 1日あたりの支給額:支給開始日以前12か月の標準報酬月額の平均÷30×3分の2(給与のおよそ3分の2)
- 連続する3日間の待期のあと、4日目から支給(待期の3日間は、有給休暇や土日・祝日でもかまいません)
- 支給期間:支給開始日から通算で1年6か月(途中で復職した期間は数えません)
申請には、医師が「労務不能」と記入する欄と、会社が給与の支払い状況を記入する欄があります。1か月ごとなど、区切って申請するのが一般的です。
休職中も、保険料と住民税はかかります
給与が出ていなくても、休職中の健康保険料・厚生年金保険料は発生します。本人負担分を毎月会社に振り込むよう求められることが多いので、事前に会社に確認しておきましょう。住民税も同じです。傷病手当金そのものには、所得税・住民税はかかりません。
傷病手当金はいくらもらえる?
傷病手当金かんたん計算で確かめる3. 退職するなら:傷病手当金を受け取り続ける条件
退職日の過ごし方で結果が変わります
療養中に退職した場合でも、次の条件をすべて満たせば、退職後も傷病手当金を受け取り続けられます(退職後の継続給付)。
- 退職日までに、継続して1年以上健康保険の被保険者であったこと(任意継続の期間は除く)
- 退職日の時点で、傷病手当金を受けているか、受けられる状態にあること
- 退職日に出勤していないこと
退職後の健康保険は、「任意継続」「国民健康保険」「家族の健康保険の扶養に入る」のいずれかになります。どれが安くなるかは収入や家族構成で変わるため、保険料を比べて選ぶのがおすすめです。
- 任意継続は、退職日の翌日から20日以内に申請しないと加入できません。期限を過ぎると選べなくなるので、退職前に保険料を確認しておきましょう
- 家族の扶養に入る場合、傷病手当金も収入として扱われます。受け取っている額によっては扶養に入れないことがあります
4. 回復して仕事を探すとき:雇用保険(失業給付)
「受給期間の延長」を忘れずに
失業給付(基本手当)は、原則として退職日の翌日から1年以内に受け取り終える必要があります。療養中でハローワークに行けない間にこの1年が過ぎてしまうと、受け取れる日数が残っていても給付が打ち切られてしまいます。
受給期間の延長
病気やけがで30日以上働けない場合は、ハローワークに申請すると、受給期間を最長3年間延長できます(もとの1年と合わせて最長4年)。傷病手当金を受けている間に延長の手続きをしておき、回復してから失業給付を受け取るのが、よくある流れです。延長の申請は、できるだけ早めに行いましょう。
病気で退職した場合の扱い
- 病気などの正当な理由で退職した場合、「特定理由離職者」として扱われることがあり、その場合は給付制限(すぐに受け取れない期間)がかかりません
- 自己都合退職の給付制限は、2025年4月から原則1か月に短縮されています
- 判断には、医師の意見書などが必要になることがあります。ハローワークで確認しましょう
- 障害者手帳をお持ちの方は「就職困難者」として扱われ、失業給付を受け取れる日数が大幅に延びます(150〜360日)
- 65歳以上で退職した方は、失業給付ではなく、一時金の「高年齢求職者給付金」になります
5. 長引いたとき:障害年金
「障害者手帳がないと無理」ではありません
障害年金は、病気やけがで生活や仕事が制限される場合に受け取れる年金です。がん、うつ病などのこころの病気、難病、糖尿病の合併症なども対象になりえます。障害者手帳の有無とは別に審査されます。
受け取るための3つの条件
- 初診日:その病気で初めて医療機関を受診した日に、どの年金制度に加入していたか(国民年金なら障害基礎年金、厚生年金なら障害厚生年金)
- 保険料の納付要件:初診日の前々月までの加入期間のうち3分の2以上を納付(免除を含む)、または初診日の前々月までの直近1年間に未納がないこと
- 障害の程度:原則として初診日から1年6か月たった日(障害認定日)の状態で、等級に該当すること。人工透析は透析を始めてから3か月、人工肛門・新膀胱は造設から6か月、在宅酸素療法は開始した日など、1年6か月より早く認定される例外があります
請求のタイミングで、受け取れる額が変わります
障害認定日の時点で障害の状態にあった場合は、あとから請求しても、障害認定日の翌月分までさかのぼって受け取れます(ただし、さかのぼれるのは最大5年分)。一方、障害認定日の時点では該当せず、あとから悪化した場合の請求(事後重症請求)は、請求した翌月分からしか支給されません。迷ったら、早めに年金事務所に相談することが大切です。
なお、うつ病は対象になりえますが、適応障害や不安障害は、認定基準上、原則として対象外とされています。
支給額の目安(2026年度、障害基礎年金)
| 等級 | 年額 | 補足 |
|---|---|---|
| 1級 | 1,059,125円 | 子の加算:2人目まで各243,800円、3人目から各81,300円 |
| 2級 | 847,300円 | 子の加算は1級と同じ |
| 3級 | 障害厚生年金のみ | 報酬比例。最低保障額は635,500円 |
※金額は昭和31年4月2日以後に生まれた方の場合です。障害厚生年金は、これに加えて(3級は単独で)報酬に応じた額が支給されます。
ほかの制度との関係
- 傷病手当金と同時期:同じ病気で障害厚生年金を受け取れるようになると、傷病手当金は差額のみの支給になります(年金のほうが多ければ支給されません)
- 失業給付とは:同時に受け取ることができます
6. 保険料・税金の負担を減らす制度
収入が減っても、支払いは前年の所得で来ます
退職した翌年も、住民税や国民健康保険料は前年の所得をもとに計算されるため、収入がないのに負担が重く感じられることがあります。次の制度も確認しておきましょう。
- 国民健康保険料の軽減:雇用保険の特定受給資格者・特定理由離職者にあたる方は、前年の給与所得を30%として保険料を計算する軽減があります
- 国民年金保険料の免除・猶予:退職(失業)した方には、本人の所得を除いて審査する特例があります。免除された期間は、障害年金の納付要件では「納めた期間」と同じ扱いになります
- 住民税の減免:失業や病気で収入が大きく減った場合に、減免や分割納付を認めている自治体があります
生活が立ち行かないときは、ためらわずに相談を
ここまでの制度を使っても生活費が足りない場合に、最後の支えになる制度があります。「自分が使ってよいのか」と迷う方が多いのですが、困ったときに使うための制度です。
- 生活困窮者自立支援制度:市区町村の自立相談支援機関が、家計や仕事の相談にのってくれます。離職などで家賃が払えないときは「住居確保給付金」(家賃相当額の支給)を利用できる場合があります
- 生活福祉資金(社会福祉協議会):一時的に生活費が足りないときに、無利子または低い利子でお金を借りられる制度です
- 生活保護:生活費の支給に加えて、医療費の自己負担がなくなります(医療扶助)。お住まいの地域の福祉事務所が窓口です
- 無料低額診療事業:医療費の支払いが難しい方が、無料または低額で受診できる医療機関があります
困ったときの相談先
- 勤務先の人事・総務担当:休職の手続き、傷病手当金の申請書、退職日について確認できます
- 加入している健康保険:傷病手当金・任意継続の窓口です
- ハローワーク:失業給付と受給期間の延長の窓口です
- 年金事務所:障害年金、国民年金保険料の免除の窓口です
- 労働基準監督署:仕事が原因の病気やけが(労災)の相談先です
- 病院の医療ソーシャルワーカー(医療福祉相談室・患者支援センターなど):通院・入院している病院で、無料で相談できます。どの制度から手をつければよいかを一緒に整理してくれます
生活費が立ち行かないときは、お住まいの市区町村の自立相談支援機関や福祉事務所にもご相談ください。困ったときに使うための制度があります。
7. あなたに合いそうな制度を、LINEで確認してみませんか
ここまで働けなくなったときの制度の順番をご紹介しましたが、実際には「自分の場合、いまどの段階で、次に何をすればいいの?」と迷う方も多いと思います。病気によっては、ほかにも手当や助成の対象になることがあります。
公式LINEでは、いまのお困りごとをタップで選ぶだけで、関係しそうな制度と記事をご案内しています。
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友だち追加はこちら診断結果は制度の一般的な案内であり、実際に申請できるかどうかは個別の状況によって異なります。詳しい条件は、記事本文および各制度の窓口でご確認ください。
8. 免責事項
- 本記事は、病気やけがで働けなくなったときに対象になりうる代表的な公的制度を、一般的な情報として紹介するものです。個別の受給可否、支給額、審査結果を保証するものではありません。
- 制度の要件・給付内容は、加入している健康保険・年金制度の種類、勤務状況、お住まいの自治体等によって異なります。必ず各制度の公式窓口・専門家にご確認のうえ、手続きを進めてください。
- 本記事は医学的な診断・治療方針、休職・退職の判断に関する助言を目的としたものではありません。治療や就労に関するご相談は、主治医・勤務先・専門家にご相談ください。
- 制度の内容は法改正等により変更される場合があります。記事内の情報は最終更新日時点のものです。
出典・参考情報
- 傷病手当金:全国健康保険協会(協会けんぽ)「病気やケガで会社を休んだとき」
- 雇用保険:厚生労働省・ハローワークインターネットサービス「基本手当について」「受給期間延長」
- 障害年金:日本年金機構「障害年金」「令和8年4月分からの年金額等について」
- 国民健康保険料の軽減:厚生労働省「非自発的失業者に係る国民健康保険料(税)の軽減措置」
- 国民年金保険料の免除:日本年金機構「失業等による特例免除」

